小さいおうち

小さいおうち

著者:中島京子 発行:2012/12(刊行:2010/05) 文春文庫

松たか子さん と 黒木華さん の出演で映画化されているのは知っていましたし、直木賞受賞作であることも。映画化で話題になった当時、映画を観ようか、小説を読もうかと思ったけれども、機を逸していました。

バージニア・リー・バートン:作 ・ 石井桃子:訳の『ちいさいおうち』という絵本を今年の3月に読んだのですが、本作品のタイトルを思い出し、読んでみようかという気になって読書の機会を得ました。

ページをめくると、時代設定が昭和初期なのは知っていましたが、晩年を迎えた女中さんが過去を振り返る手記という形で、読者を昭和初期に連れて行ってくれるとは想像していなかったので、いい意味で予想を裏切ってくれました。スムーズにその時代に飛んでいけた気がします。

『小さいおうち』とはいうものの、現代の狭小住宅のような家というわけではなく、女中さんのいる家としては小ぶりな家という規模です。現代の庶民感覚からすれば大きな家に属するでしょう。

郊外の高台の赤い三角屋根の昭和モダンの文化住宅。会社重役の旦那様、若く美しい奥様、前夫との間の息子、女中の4人による『小さいおうち』での暮らしぶり。戦前、戦中、戦後の激動の時代を、女中視点で描かれているところが新鮮で、当時の庶民の肌感覚に近いのではないかと思った。

読みはじめて、最初のうちはそうでもなかったけど、徐々に作品の世界観に引き込まれていった。

読んでいて、百田尚樹の『永遠の0』が思い浮かびました。『永遠の0』では孫が、『小さなおうち』では甥の次男坊が、故人の想いを解く旅に一緒に読者を連れて行ってくれました。

人生がいつか終わるとき、やり残したことはあると思うけれど、まぁいいかと思えれば、それで十分かと思いました。独りで死んで、死後数日経って発見されても、幸せな結末ってこともあるかと。

素敵な作品でした。映画版もDVDで観たいと思います。

(2017年の27冊目)

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