小さな家、可愛い家

小さな家、可愛い家 TINY HOUSE
著者:ミミ・ザイガー Mimi Zeiger 訳者:黒崎 敏
発行:2012/07 二見書房

感銘を受けて、吸い寄せられてしまったのは次の3件です。
素晴らしい建物ですね。

こぶたの家 S(ch)austall ドイツ、ファルツ
設計:FNP Architeckten

P122より
一見、古めかしいお屋敷のようだが、元をただせば「豚小屋」だった。その名残りが正面の床レベルにある横軸回転式の開口部———かつて豚たちが出入りした戸口である。
建物そのものは18世紀の石造りの小屋だが、第二次世界大戦で損傷を負い、長年にわたり修繕されながら使用されてきた。

P125より
外壁から屋根が浮いていることで小屋の愛らしさが生じている。

P126より
風化した石積みの壁とは対照的に、内装は質素なラーチ合板でシンプルに仕上げられ、ギャラリーのようだ。
室内に張られた合板はけっして高価なものではないが、オレンジがかった照明が石壁の窓から漏れ出て、つい暖かそうな室内へ誘われそうである。

P129より
鬱蒼と茂る森の中に潜むように・・・・・・。灯る明かりが廃墟ではないことを物語っている。

 

ページを開いて・・・というのは気が引けるので、
以下の2作品については、簡単に 描いて みました。
長男曰く、「画力が足りない・・・」と直球の指摘(笑)。
あ~・・・検索して写真と比較しないように・・・^^;。

ビーチハウス Casa Mar Azul アルゼンチン、マール・アスール
設計:BAK Arquitectos

P58より
浜辺に建てられた1軒
ビーチ沿いに松林が長くのびる土地に建てる家
周辺の風景にうまく馴染むプラン

P59より
杉板型枠コンクリート打ち放しの壁面と屋根が描く水平ライン
粗い打放しのコンクリート壁でキッチンと寝室のプライバシーを守っているが、テラスやリビングを気品ある木材で仕上げているため、全体に木造家屋の感が強い。
片持ち梁の平らなコンクリート屋根だけで家全体を覆っているのも一興

P61より
本物のいい素材だけで造られたこの家は、海辺のどんな気候にも耐えられるような工夫が施されている。
防風林となる松林は、夏には心地よい日陰をつくってくれ、爽やかな海風が吹き抜ける。
部屋に明かりが灯り、荒々しいコンクリート空間と無垢材の家具が美しい調和を。

 

キノコの家 Woodland Cabine ベルギー、フランダース
設計:Robbrecht en Daem

P112より
森の中の一軒家
森の中を流れるせせらぎの畔にひっそりと佇み、おとぎ話に出てきそうな雰囲気を漂わせている。
ベルギーで昔から親しまれているコミック『スマーフ・ビレッジ』に登場する家をイメージして造ったという。
丸い壁は2つの円が重なる輪郭をなぞって、ピーナッツの殻のようなラインを描いている。

P113より
〝ピーナッツの殻〟の中央にはシンプルな薪ストーブがでんと据えられている。それを境に、一方の殻には明るい憩いの間が、もう一方の殻には檀状のベッドが設けられ、思いのほか室内はゆとりある空間になっている。
とりわけ角材を煉瓦のように積み重ね、凹凸の表面を強調した丸い壁は面白い。

P114より
無垢の木片を煉瓦のように積み上げた壁がそのまま室内に現れている。
林立する雑木林の足元に同化する小さな小屋はまさしく隠れ家だ。

P115より
小さな木橋を渡って入るというアプローチも、この〝隠れ家〟の一つの趣向である。

 

本書の世界の小さな家34作品は、いずれも独創的で見ていて楽しいです。
僕はそのなかで上記3作品に強く惹かれました。
素晴らしい〝小さな家〟です。
小さいって面白い!
ですね。

(2018年の24冊目)

人類資金Ⅳ

人類資金Ⅳ

著者:福井晴敏 発行:2013/10 講談社文庫

 

読んでいて〝しびれて〟しまったのは

改革のなんのと耳障りのいいことを言いながら、上の世代は自分たちのことしか考えていない。その場しのぎの延命工作で茶を濁すか、そうでなければ無責任なスタンドプレイでやりたい放題。あとは野となれの独善三昧だ。彼らはいい。古い秩序の恩恵をたっぷり享受してきたのだから、これまでが間違っていたとか、これからは発展や成長より人間の幸せを追求しようとか、好きなことが言える。ぼくたちはどうなる?高度成長の熱もバブルの狂乱も知らず、彼らがさんざん遊んだあとのツケを支払わされているぼくたちは?縮小タームに入ったこの世界で、彼らの言いなりに生産性の向上に努めるしかないのか?本音では自分たちが引退したあとの世界がどうなろうと知ったことではないと考えている連中、十年後の世界より年度末の決算を重要視している連中に顎で使われて、終わりゆく世界の目撃者になれとでもいうのか?(P111~112)

(前略)政治も、国防も、経済も。戦後の日本人が、自分で決められたことなんかなにひとつなかった。すべてアメリカから供与されたものだったからです。戦闘機や対艦ミサイルと同じ、日米協定で裁量される供与品でしかなかったからです」(中略)「私たちは人間です」(中略)「主権を持つ国家の一員、自分で自分の生き方を定める権利を持っています。始まりがどうであれ、戦後の七十年間を生きてきたのは私たち自身です。東西冷戦は二十年も前に終わった。日本は反共の防波堤としての役割を終えた。敗戦のツケはもう払い終えたはずなのに、私たちはいまだに古い〝ルール〟に縛られている。そう命じられたからではなく、変わる勇気を持てずに自分で自分を縛り付けて———」(P159)

(前略)つまり、日銀によるゼロ金利政策の解除が、リーマン・ショックの引き金を引いた」(P161)

寄付を集めて送り付ければ、飢え死にする幼児の何百人かは救えたと信じ、そうはならない現実を意識的にも無意識的にも無視する。この恣意的な先進国からの援助と、現地の個々のニーズをすり合わせるために、地域密着型の非政府組織(NPO)が東奔西走している国もあるが、ベテランの職員がたどり着く真理は常にひとつ。曰く、『援助で立ち直った国はなく、自ら変わろうとしない者を変えることはできない』。(P210~211)

縦割りの官僚主義、己の職分のみに忠良たれと説くセクショナリズムは、江戸の昔から続く日本の国民性と捉えられがちだが、現実には違う。自分で決めること、考えることを封じられた傀儡国家が、意識的にも無意識的にも養ってきた体質———すなわち、我々が与えたものだ。(P240~241)

 

解説や巻末にもあるが、この作品は、最初から文庫サイズで発表されている作品とのこと。新書サイズなどでは見かけるけど、文庫サイズでは少ないような気がする。そういう作戦で発売されているのですね。持ち運びしやすい小ささで、一冊一冊をお買い求めしやすいお値段で、多くの人に読んでもらいたい、という感じでしょうか。僕は〝紙の本〟が好きですし、印象に残ったところは〝野帳〟に書き写すのが好きなんです。ここに書いてる文章も一旦〝野帳〟に書き写したものから書いているんです。読んで気になったところは記憶に留めたいですし、自分自身にインプットするには手書きで書くのが僕にとっては良いようです。

ストーリーも俄然激しく動いてきましたね。この先どうなるんでしょうか!書店にⅤ巻が届いたようですし、取りに行こうかな!

(2018年の22冊目)

360°BOOK 富士山

360°BOOK 富士山
著者:大野友資 発行:2015/11 青幻社

心の友から本をいただきました。富士山の本なんです。

余談ですけど、僕たちの間では富士山のことを おじさん なんて言ったりもしています。

なんで〝おじさん〟?

ふじさん を おじさん に聞き違えて、大爆笑したことに端を発します。

それはともかく( ´艸`)、最も日本人に親しまれる山、富士山の本!

ケースから出してみると、???360°・・・・・・。開くと、

おおっ!

すっげ~・・・・・・なにこれ~・・・・・・富士山だ!

しかも鶴は飛んでるし、雲は浮かんでるし、太陽も出てる!

アイデアがすごい。うん。よく考えたね。ほんと画期的。

やりようによってはこんな面白い商品がつくれると。

目から鱗が落ちるとは、こういうことなんだね。

我が心の友よ、ありがとう。元気出たぜ!

人類資金Ⅲ

人類資金Ⅲ
著者:福井晴敏 発行:2013/09 講談社文庫

 

読んでいて、思わずしびれてしまったのは

被災地に救いの手を差し伸べた男が、小一時間前にはひとりの人間を脅かしつけ、破滅させようとしていたなどと信じられるだろうか。これと決めた相手への自己犠牲を厭わぬ献身と、人を人とも思わぬ暴力性が一個の人格の中で矛盾なく存在する。(P36)

大戦による喪失を埋め合わせるために、特例的に人口が増えた異常を、団塊ジュニア世代が少子化傾向によって正常化しようとしている。このまま行ったら、何十年後かには日本の年間出生数は一人になるなんて試算もありますが、ぼくにはそうは思えません。団塊世代が永眠し、高齢者人口が一気に減少し始めれば、出生数は自ずと回復してゆく。人口の適正値が何人なのかはわかりませんけど、どこかで底を打つ時が来ると信じています。(P60)

金を借りた者は、必ずそれを増やして返さなければならない。この〝利子〟という制度が、我々の社会に永遠の成長を強いているのです。(中略)
銀行も、投資家も、その者が将来的に富を生み出すであろうという予測、すなわち信用に基づいて金を出す。信用が失われれば誰も金を貸さない。あり余る金は金庫に死蔵され、経済は回らなくなり、みんなが困窮する本末転倒が引き起こされる。9・11、リーマン・ショック、ヨーロッパ債務危機、すべて構造は同じです。伸び代を使い切ったと誰もが暗黙に了解している世界では、いともたやすく信用不安が起こる。(P62)

個人参加の投資家も抱き込んで、「モノを言う株主」なんて言葉を流行らせたのも彼らです。株の配当が鈍いなら、経営に口出ししてでも株価を上げさせろ。できない経営者は首を切れ。そんな風潮が当たり前になれば、企業は短期収益が望める仕事しかできなくなる。長期開発投資が不可能になった企業は空洞化し、実業たる産業はさらなる衰退に追い込まれて、すべてが金融市場に寄りかかった脆弱な社会構造ができあがった。(P63)

企業を育てるのが投資家、株の上げ下げにヤマを張るのが投機家。確か、グレアムの定義だったよな。(P63)

融資に金利という基本条件がつく以上、貨幣経済システムは果てしない発展を強いられる構造を持つ。その構造、システムを維持するために、ぼくたちは自分の尻尾を食ってでも成長するよう仕向けられている。善意から始まったシステム、人を生かすためのシステムが、人を取り込んで使役する逆転現象が・・・・・・暴走が起こっているんです。(P68)

生きるためにはなんでも正当化する一方、ロシア正教伝来の宗教観ですべては神の思し召しと割り切り、自己矛盾を一顧だにしない強かさが彼らロシア人の根底にはある。国ぐるみの刻苦を経験した分、名より実の精神が染みついているのだ。終戦直後の日本を生き抜いた人々も、あるいはこんな目をしていたかもしれない・・・・・・(P76)

二十一世紀の最初の数年間、日本は規制緩和の波に乗って好況を享受し、ホリエモンに体現される拝金主義に国ぐるみで浸かったのだが、一般就業者に還元されない——と言うより、還元しないがゆえの好況だった——数字だけの好況は長く続かず、リーマン・ショックを待たずして個人投資家ブームは終焉。(P84)

「しかし尖閣はともかく、竹島はどうかな。あれは朝鮮戦争の最中に韓国が一方的に領有を宣言したものだが、当時の日本には発言権がなかった。島に軍事拠点を置いて、実効支配の既成事実を積み重ねている韓国を相手に、いまさら返還を要求するのは難しい。北方領土も然りだ。戦争に敗けたどさくさで、当時のソ連に奪われた。土壇場で不可侵条約を覆したソ連は、外交政策上うまく立ち回ったというだけのことで、批判されるには当たらない。それが政治というものだ」(P120)

 

さあ、Ⅳ巻ではどうなってゆくのか!

(2018年の21冊目)

自分が変わる 靴磨きの習慣

自分が変わる 靴磨きの習慣

著者:長谷川裕也 発行:2017/11 ポプラ社

 

日曜深夜の岡田准一さんのラジオ番組に著者がゲスト出演していました。話が面白くて。今時、若者が、路上で靴磨き職人はないよな・・・と。しかし、著者は行列のできる靴磨き屋として有名になり、その後、南青山に靴磨き専門店を開設、数多くの著名人を顧客に持つそうです。2017年には、ロンドンで開催された「靴磨き世界大会」で優勝し、靴磨き世界一の称号を得たとのこと。凄いですね。

いろいろな職業があるけれど、斜陽産業といわれるようなものでも、やる気とアイデア次第では、可能性があるんだなと思いました。どんな分野が伸びるかということも大切ですが、目の前の仕事はどうすれば伸びるかという視点の積み上げも、身近な部分で大切なのではと思いました。なかなか見えないけどね。

 

読んでいて、ほほ~・・・と思ったのは

ただ、「乱れ髪でも、靴がピカピカなら一流に見える」という面白い法則については、ぜひ頭にとどめておいてください。(P10)

足元から人を元気にできる。
人が元気になれば世界は変わる。
足元から「革命」を起こせるのではないかと心から思いました。(P13)

人の脳は慣れていないことに対して、実際よりも多くの労力や時間がかかると感じるようにできているものです。(P35)

靴にこだわるから、仕事で成功するのか。
仕事で成功するから、靴にこだわることができるのか。
私は前者であるような気がしてならないのです。(P77)

きっと靴を、あなたを見極める判断材料の一つとしています。(P115)

「安い靴は不経済だからね」(P131)

靴磨きには停滞していた気持ちを明るくし前向きにする力があるんだなと、改めて思い知ります。
「とびきりいい靴を履きなさい。いい靴を履いているとその靴がいいところへ連れて行ってくれる」
ヨーロッパにはこのようなことわざがありますが、(P133)

しかし私は、男性が靴磨きをきっかけに、ポジティブなスパイラルを自ら作り出されたような気がしてならないのです。(P141)

具体的な靴のブランドを挙げるのなら、「スコッチグレイン」(日本製)や「ジャランスリウァヤ」(インドネシア製)といったメーカーがおすすめです。(P183~184)

 

足元から気を遣うようになれば、運勢が上向くかなぁ!
でね、人を判断する時って、実はけっこう足元見てるよね。
実際、尊敬できる人って、靴はきれいにしてる人が多いしね。

(2018年の20冊目)

人類資金Ⅱ

人類資金Ⅱ

著者:福井晴敏 発行:2013/08 講談社文庫

 

読んでいて、思わずしびれてしまったのは

消費税がどうの、リクルート事件がこうのと筋道の立たない呪詛を垂れ流しながら、時おり思い出したように威嚇の声を張り上げ、奇妙に動かない目で行き過ぎる人を睨み据える。もはや競馬の予想も困難と思える病んだ頭は、しかしおそらくは生まれつきのものではあるまい。噛み合うべきところで噛み合わなかった歯車、逸脱に逸脱を重ねた人生の負荷が彼の正気を蝕んでいったのに違いなく、その眼には誰が落ちてもおかしくない暗い陥穽がある。そう、いまは見る影もなく落ちぶれているが、彼がかつてはやり手の同業者であった可能性だってないではないのだ。(P36)

政治家とヤクザが手を結んで、裏で国を操ってるなんて次元の話じゃねぇんだ。顔もねぇ、正体もわからねぇモノが世界中を支配していて、おれたちの知らねぇところで世の中を動かしてる。自分で決めたと思ってることも、みんなそいつらの手のひらの中だ。(P57)

もっと壮大な嘘で世界全部を騙している何者かがいる。騙す奴と騙される奴、世の中にはその二種類の人間しかいないのなら、おれたちが騙される側であっていい道理はない。(P69)

縦割り行政の弊害というだけではない、根底に断絶した歴史を敷く国家ならではの不実がそこにある。戦前戦中の記憶などすっかりなくしたような顔をしていながら、実はなにもかもがその上にできあがっている国、日本。終戦のどさくさに為された隠蔽、曖昧な約束事が現在にも隠然たる影響を及ぼし、東京の地下に戦争の遺産を留め続けている。遠い昔に発せられた声、〝探ってはならぬ〟と命じた父祖の声に従って。わからないことはわからないままに留めよという論理、職域以外は関知せずのセクショナリズムを唯一の正義にして。(P135)

成長し続けなきゃ見れない夢ってなんなんだ?無理なんだよ、もう。みんなで爪先立って、見かけの数字を稼いだってさ、誰も幸せになれてないじゃん。その無茶のカラクリが破綻したのが、リーマン・ショックや福島原発だろ。家や故郷を失った人間だっているのに、あれは事故でした、今度は気をつけますって、違うだろ。やり方が間違ってたんだよ。いまの〝ルール〟に従ってる限り、この先はもうないんだよ。(P148)

〝神〟それも 人の形をした〝神〟。ひどくいかがわしい言い回しだが、わかるような気はする。ある他人、ある言葉との出会いによって、人生が変わることはままある。教え導くのではなく、身の内に眠るなにかを共振させ、進むべき道を気づかせてくれる何者かとの出会い—(後略)(P155)

 

出会いで人生が変わる。ありますね。その場限りの出会い、しばらく続いた出会い、生涯続く出会い・・・期間の長短もあるけど、古い価値観の殻を破り、新しい想像力を得、行動力や方向性が大きく変わってしまった出会いが誰にもきっとあると思う。これからも、きっと・・・あるんじゃないかな、生きてる限りは。

(2018年の19冊目)

人類資金Ⅰ

人類資金Ⅰ

著者:福井晴敏 発行:2013/08 講談社文庫

 

読んでいて、しびれてしまったのは

自由と移民の国を謳いながら、根強い人種差別が残るのが彼の祖国だ。(P31)

リーマン・ショックに大震災、その後も危機また危機の連続で、国民は現行の統治システムに対する信頼を失ってる。民主の凋落で自民が盛り返したのはいいが、日銀と二人三脚で仕掛けたアベノミクスも底が割れたし、少子高齢化のツケが回ってくるのもこれからだ。数字のマジックで国内総生産を増やしたところで、お先真っ暗じゃ国民の財布の紐は緩まない。(P105)

で、また未来への負債が積み増しされる。年間四十兆円の税収に対して、政府支出が毎年八十兆円。消費増税なんて焼け石に水で、すでに千兆円もの負債を溜め込んでるこの国で、だ。金をばらまきゃ経済が動き、名目税収と支持率が上がって万々歳って理屈は、もうどこの先進国でも通用しない。特に日本の内需はどう頑張っても減少傾向だ。最大のボリュームゾーンだった団塊世代が現役引退したせいで、モノも土地も在庫で根腐れしてる。もうモノの供給を絞ってくしかないところまできてるんだが、こいつは経済界では絶対の禁句だ。消費者の数に合わせて企業の生産性を見直しましょうなんて話、株主資本利益率ひとつでクビが飛ぶ経営者が受け入れるわきゃないからな。そいつらに後押しされてる政治屋どもも、言わずもがなだ。(P110~111)

確かに日本には技術力がある。国債で塩漬けになってる分を除いたって、五百兆円近い個人資産だってある。それほど悲観する必要はないって話もあるが、一人っ子政策のツケが目前に迫ってる中国といい、これからの先進国はどこも生産年齢の減少って事態に直面する。従来のモデルじゃ輸出が伸び悩んでいくのは自明だし、個人資産にしたって大半が消費に回らない死に金だ。(P111)

リストラや経費削減で見かけの数字を稼いでいる会社にいりゃ、いざって時のことを考えて貯蓄に走るしかない。いくら財政出動したって、みんな死に金ブラックホールに呑み込まれちまう。そのへんの庶民感情ってやつが、金に困ったことのない二世議員やお公家さんにはわからんのさ。底を打っただの緩やかに回復してるだの、バカでもできる短観発表で仕事した気になってやがる。十年後を見据えた施策なんて、逆さに振っても出てきやしねぇ。(P112)

この世に、永遠に成長し続けるものなど存在しない。バブル崩壊で学んだはずの教訓をよそに、企業は生産性の向上に励んで大量のモノを供給し、需要者なき市場で値崩れを起こしてはデフレだと嘆く。儲からなければ経営の効率化をさらに推し進め、不要と切り捨てられた人材をあぶれさせて、消費環境の悪化に一層の輪をかけもする。(中略)無制限のばらまき政策で失われた二十年を取り戻そうとしたアベノミクスも、国家財政をより深い負債の海に沈める結果に終わりつつあり、(中略)少子高齢化過程の社会保障制度は、消費税増税程度では将来の年金給付が賄えず、投資による利殖活動なくしてシステムを維持できないところまできているという。未来を担保に経済も人口も膨れ上がらせるだけ膨れ上がらせ、自然的な人口減が始まっても元に戻る道筋さえ見つけられない。エコだ節電だと叫んでも焼け石に水で、自転車操業で経済を回していかない限り、これまでに積み上がった借金の量に圧し潰されてしまう。実体経済だけでは年金機構が破綻するなら、引き続き金融主導型経済を。電気代の高騰で産業の空洞化が懸念されるなら、原発の再稼働を。国内総生産を上回る金融商品が世界規模のバブル崩壊を引き起こそうと、暴走した原子炉が国土を放射能で抉り取ろうと、他に選択の余地はないし、考えても仕方がない。一方の秤に〝危険〟を乗せねば均衡が取れない、それが現代社会の実相であるという現実ひとつを受け入れ、出口のない闇の中を歩き続ける他ない。なにをしても先に進めず、先があるとも信じられずに、見えない牢獄の中をぐるぐると。こうする以外にないのだと囁きかける声、囚人たちの行動をあらかじめ規制する〝ルール〟に縛られて—-。(P162~164)

 

柵に囚われたノンフィクションよりも、よりフィクションのほうが事実を物語ることもある・・・。福井さんの作品は、Twelve Y.O.、亡国のイージス、川の深さは、終戦のローレライ、機動戦士ガンダムUC などを読んだことがあります。長い序章は重いのですが、徐々に徐々にその世界観に足元から浸っていき、展開がスピードを増している頃にはすっかり世界に浸っていることになる。今回もそのようです。僕にとっては久しぶりの福井ワールドなんですが、展開が楽しみですね。面白いです。

(2018年の18冊目)

谷川俊太郎 質問箱

谷川俊太郎 質問箱

著者:谷川俊太郎 発行2007/08 HOBONICHI BOOKS

 

本文より 心にぐっときたところ

質問 四 どうして、にんげんは死ぬの?さえちゃんは、死ぬのはいやだよ。(こやまさえ 六歳)(P18)

谷川さんの答 自分を他人とくらべることで、人は自分を発見し、成長してゆくのではないでしょうか。羨望も嫉妬も生きるエネルギーです。実はぼくはもう他の人に羨望も嫉妬もあまり感じなくなってますが、これは年取ってエネルギーが減り、鈍感になったからでないかと悩んでいます。(p35)

谷川さんの答 でも、自分に自信があれば「自分が間違っている」ということも、受け入れられるはずだよね。(P45)

谷川さんの答 そんなときはその場で怒れなかった自分の反応の遅れを、自分の個性として認めてしまってはどうでしょうか。そのときその場で怒らなかったことが、あとで相手との関係にプラスに働くことだって多いと思うから。(P47)

谷川さんの答 国家をなくしていく方向に人類の未来があることは、はっきりしていますから、(後略)(P80)

谷川さんの答 動物のように現在に全力投球すれば、要らない心配は要らなくなります、(後略)(P107)

谷川さんの答 ずっといけるかどうかは、もっぱらこれからも仕事がくるだろうかという、経済的な不安にかかわってました。(中略)自信って自分ひとりでもてるものじゃなくて、他人がもたせてくれるもんですよね。(P111)

谷川さんの答 仕事に関して言えば、理不尽な締め切り、たとえば明日朝十時までに詩を一篇なんて言われると、やる気が起こります。(P113)

糸井 「友達」というものをみんなが好きなのは、友達同士はジャッジじゃなくて共振し合うからです。(p184)

(2018年の17冊目)

 

空母いぶき9

空母いぶき9
著者:かわぐちかいじ 協力:惠谷治 発行2018/04
(ビックコミック2017/19号,20号,22号~2018/3号掲載作品)
小学館

帯表紙より

護衛艦「せとぎり」を失い、「あまぎり」を迎えた第5護衛隊群。向かい合う中国「広東」艦隊との空母対決の様相が強くなるなか、現場海域を超大型台風が襲う。そのわずかな休戦時間が終わる時、意外で苛烈な戦闘が始まる!!!
現代空母対決が驚異の攻撃で幕を開けるッ・・・!!!

(2018年の16冊目)