裁判官の爆笑お言葉集
著者:長嶺超輝
発行:2007/3 ( 1刷)
2023/10(39刷)
幻冬舎新書
割と有名な本だけど興味もなくて、書店で手にすることもなかったのですが、なんと僕自身が裁判員裁判の裁判員を経験するという、有権者ベースで一年間に裁判員を経験する確率は17700人に1人(裁判員制度ナビゲーション/最高裁判所発行より)という僕としては驚天動地の超貴重な経験をすることができました。
メディアの報道を見て、刑が軽すぎるだの重すぎるだのと言いたい放題だった自分が、裁判員を経験した後は、見方が大きく変わりました。
縁とは不思議なもので、3人の裁判官や6人+2人の裁判員、法務省職員、検事、弁護士、被告、被害者、証人等、僕の普段の日常生活では絶対に知り得ない人達との裁判所内での集いは、僕の人生の転機ともなる出来事だったと思います。
本書は裁判所へ向かう途中の書店で、ふと手にしたものです。初版発売当時は、裁判員裁判(2009~)は始まっておらず、今日の刑事裁判とは異なる面もあるとは思いますが、自分が裁判員を経験する前は全く興味のなかった本が、経験後は違う見方で読み進めることが出来たことに、自分でも新鮮な驚きがありました。
「法という道具を使って、人が人を裁く」とはどういうことなのか、民主主義国家における裁判とはどうあるべきなのか、将来もし自分が裁判員になったらどう振る舞うのか、といったことに、少しでも思いをはせていただけるなら、著者としてこれほど幸いなことはありません。P10
向かって右側の左陪席には、裁判官になって5年以内のフレッシュな判事補が、左側の右陪席にはそれ以上のキャリアがある中堅裁判官が座ります。そして、判決文の案は若手の左陪席が書くことになっています。P96
合議法廷での判決は裁判官全員一致の結論として言い渡されます。(中略)評議で意見が割れたなんてことは、公には一切明かされません。評議の内容は非公表。裏でどれだけ揉めたとしても、まるで何もなかったような顔をして、裁判長は「全員一致」の結論として判決を言い渡さなければならないのです。P114
今、この場で子どもを抱きなさい。
わが子の顔を見て、二度と覚せい剤を使わないと誓えますか。
覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われた被告人に向って。
P118
本件で裁かれているのは被告人だけではなく、介護保険や生活保護行政の在り方も問われている。
こうして事件に発展した以上は、どう対応すべきだったかを、行政の関係者は考えなおす余地がある。
実母との心中を決行し、自らは生き残ったために承諾殺人の罪に問われた被告人に、「献身的な介護で尽くした息子を、母親は恨んでいない」として、執行猶予つきの有罪判決を言い渡して。
P126
いい息子さんとお嫁さんなんだから、ふたりの面目をつぶすようなことは、二度としてはいけないよ。
入水心中を図った老夫婦のうち、車椅子の妻(当時80歳)のみが死亡した事件。承諾殺人の罪に問われた84歳の夫に対し、執行猶予つきの有罪判決を言い渡した後、50歳の息子を法廷内に呼び寄せ、握手をさせて。
P128
もうやったらあかんで。
がんばりや。
窃盗の罪に問われた被告人に、執行猶予・保護観察つきの有罪判決を言い渡しての、閉廷後の出来事。被告人が退廷するときに、一段高い裁判官席から身を乗り出し、被告人の手を握りながら。
P130
裁判所としても太郎君が心配なので、できるだけ軽い刑にしました。
真面目に務めれば、さらに早く出られます。フィリピンへ帰ったら、いいお母さんになって。
出入国管理及び難民認定法違反(在留期間超過)と、覚せい剤取締法違反(譲渡)の罪に問われた、フィリピン国籍の女性に、懲役2年の実刑判決を言い渡して。
P132
無罪判決や国を負かす判決を出すことが多い裁判官は、いきなり不自然な職場異動を言い渡されたり、出世・昇給が頭打ちになったりするナゾの現象が目につきます。単なる「職場のイヤガラセ」では片付かない問題です。P138
「求刑の8掛け」で懲役などの年数が決められているように見えるのは、裁判官の量刑相場を検察官が知りつくしていて、あらかじめその2割増しで求刑しているから・・・・・・?P172
興味深く、リアルに、読ませていただきました。
裁判官の法廷での被告人への言葉を読んでいると、その情景や事件の背景が浮かんできて、電車内だというのに目頭が熱くなってきてしまいました。
ここには書きませんでしたが、本書での凶悪犯への一線を超えた叱責など、裁判官も人なのだと、これも実感として思うところでありました。